岩手の旬を一皿に。季節を味わう和の創作料理
盛岡市街の小さな路地に佇む「ななしの庵」さん。岩手の食材を使い、土地の風土や食文化を大切にした料理を提供しています。
今回は、ヤマキイチ商店の「泳ぐホタテ」を使った料理を味わいながら、店主の石川優太さんに、食材へのこだわりやホタテの魅力についてお話を伺いました。
〈取材日:2026年9月〉
取材にご協力いただいたお店
ななしの庵 様
〒020-0023 岩手県盛岡市内丸5-6
TEL:019-613-6777 https://www.instagram.com/untitled_hermitage
盛岡・桜山、カウンター6席の「ななしの庵」。油絵画家としての顔も持ち、日本酒「南部美人」のラベルデザインも手がける石川さん。そんな多彩なセンスと、郷土への敬意が息づくおまかせコースを提供されています。岩手の地酒とともに、一期一会のひとときを堪能できる隠れ家的なお店です。
*おまかせ料理¥12,000(税別)・完全予約制
(2027年3月より¥15,000に改定)
*ご予約について
・instagramまたはFacebookページの詳細を必ずご一読の上、メッセージからご予約を推奨しております。
・週末は3ヶ月ほど先まで満席の場合もありますのでお早めにどうぞ。
*ご予約時に「ヤマキイチの泳ぐホタテ希望」とお伝えいただければ、コースにホタテ料理を組み込ませていただきます。
岩手の食と文化の出会う場所
一期一会の夜
一日の始まりは、仕込み水(湧き水)を汲みに行くところから
石川さんのお店は地産地消というか、岩手の食材にすごくこだわっていらっしゃいますよね。
水も毎日自分で汲みに行かれているというのは本当ですか?
はい、一日の始まりは湧き水を汲みに行くところから始まるんです。仕込み水には、盛岡市内の湧き水を使っています。
こうやってお白湯を沸かしたり、お米を研いだりご飯を炊いたり、出汁を引いたりっていう、すべてに使っているその日の水なんです。
お水から大切にされているんですね。
食材も、岩手のものを基本的に使われているとお聞きしました。
はい。手に入れようと思えば遠くからもいい食材が入る世の中ですけど、そこはあえて自分に課しているルールで、岩手のものだけでその日の季節を表現するというのをテーマにしています。今朝も農家さんが採れたての白丸ナスを持ってきて下さいました。まだ温かかったですよ。
その日の食材を元に料理を組み立てているという感じです。
旬の食材を使うということの他にも、「これいついつに仕込んだやつ」とか、結構前から仕込んで準備されたりしていますよね。梅干しや発酵調味料なんかもご自身で作っているとお聞きしました。
そういうことも、調理をする上で大切にされていたりするのでしょうか?
旬のものを使うということに留まらず、その季節季節で田舎でやっていることって決まっているんですよね。例えば夏なら梅干しをつけて干すとか、キノコがたくさん採れたら塩漬けにしておくとか。そうした季節の営みをベースに取り入れながら料理を考えています。
結果として、旬の食材ってすごく元気があるというか。そこに時を経たものを使うことによって時間的な幅と味わいの幅が出てくる。それは自分が好きで使う手法なんですけど、手法だけじゃなくて、根ざしてきた文化の継承でもあります。
郷土料理というものが発想のベースにあって。でないと、ただの創作になってしまうので。
画家としても活動する、石川さんのもうひとつの顔
石川さんは、画家としても活動されていますが、お料理を見てもやっぱり芸術家というか、アーティストの一面を感じます。
絵を描くことと料理には、共通するところがありますか?
あると思います。キャンバスに向かって絵を描く時間がなくても、料理を作る上で構成を考えたりするのは、自分の中で表現の一つになっているんだと思います。
料理も素材を並べるだけではなく、どう組み合わせ、どう味わっていただくかを考えることが大切だと思っています。
絵を中心に活動されていた頃も、あるのですか?
盛岡で飲食店の接客サービスを経験した後、一度東京に出て、絵を主軸にした生活を送ってみたいと思い、上京しました。
アルバイトを掛け持ちしながら絵を描き、コンペに出品したり、ギャラリーで展示をしたり。大変でしたが、いくつか賞もいただきました。
その後、地地元の岩手に戻り今の店を任せていただくことになったんです。お店は今年で10年目、独立して6年目になりますが、絵は、今も毎朝、時間を決めて描いていますよ。
毎朝ですか?
はい。絵を描くのは朝の水汲みが終わったあとに1日2時間、7時から9時までと決めています。
朝は、自然光が一番きれいな時間というのもありますけど、一番、魂が汚れていないと言いますか(笑)。
朝は神聖な感じがしますもんね。
画家としての活動も、生き方というか、2つともが今の料理につながっているんですね。
酒蔵での経験とつながる、ヤマキイチとのご縁
なぜ、ななしの庵で『泳ぐホタテ』を使おうと思われたのでしょうか?
ホタテが活きたまま仕入れられること、素材のクオリティはもちろんですが、幼少期に釜石の漁師の親戚のところで食べたホタテの味や香りの記憶が呼び起こされるというのもあります。
それを自分の店で提供できるのは幸せなことですよね。
最初のきっかけは、お客様にヤマキイチさんのことを紹介されたのですが、実は僕が昔、住み込みで勉強に行っていた酒蔵の社長と一緒に来られたんです。
酒蔵には住み込みで働いておられたのですか?
はい。元々お向かいのお店で世話になり、オープンから社員として接客を学ばせていただきましたが、その前に、南部美人さんのところへ住み込みで"一冬一つくり"蔵仕込みの仕事を。
将来、日本酒を扱うことになるというのは自分の中でもう決まっていたので、その勉強のために行きました。
ほとんど掃除や下働きしかやらせてもらえなかったですけど。『1に掃除、2に掃除』。やっぱり微生物を扱う現場なので「そこをやらずして他はできない」と。そういう一番根本的なことをさせてもらって、本当に多くのことを学ばせてもらいました。
お酒のラベルデザインも手掛けておられるそうですね?
はい。南部美人さんのラベルをデザイナーの方と一緒にですね。学生時代に絵を描いていたこともあって、とんとん拍子にラベルのデザインにも関わらせていただくことに。
これもそうです。
すごいですね! 現場での経験が、ラベルのデザインという表現にもつながっているんですね。
そして、そこで生まれたご縁が、私たちヤマキイチ商店との出会いにもつながっていった。本当に素敵なご縁ですね。
"食材が生まれた現場"を感じてほしい
水を汲みに行き、絵を描き、仕入れや仕込みもされていて。お一人ですべてを担っているんですね。お客様に料理をお出しするまでに、たくさんの準備をされているのだと感じます。
そうですね、やはり段取りや準備が9割です。
今、パッと時間が空いたら何をしたいですか?
現場に行きたいですね。やはり料理を作る上ですごく大事ですし、お客様に伝えたいのは食材が生まれた現場なんです。
だからヤマキイチさんにもちょくちょく足を運んで、周りにどんな方がいてとか、お母様に会ってお話するのも含め、どんな仕事をしているのかなど、現場を感じることを大事にしたいと思っています。もっとそういう時間に当てたいです。
山菜やきのこも、お店に並んでいる姿ではなく生えている姿を見ることで、料理につながると思っています。
確かに、私たちも生産の現場や、そこで働く人たちのことを知っていただくのは大切だと感じています。食材そのものだけでなく、その背景まで知ることで、味わい方も変わってきますしね。
そうですね。あとは味噌を仕込んだり、時間があるときにしかできない仕事もあります。そう考えると、なかなか暇はないですけど。笑
世のお母さんたちも、食に関してはずっと暇ではないですよね。そういえば昔は祖母たちも時間が空いたら「畑に行かなきゃ」とか言っていました。でも、大きなスイカが取れたらすごく喜んだり。それが人が生きるということですよね。
それが喜びなんですよね。
私も釣りをしながらリフレッシュしています。釣っている時から、何の料理にしようかとは考えていますけど。
おかげさまで、四季折々の食材を目当てに季節ごとに足を運んでくださる方もいます。
石川さんは、ホタテの魅力も四季ごとの料理で表現してくださいますからね。特に春の、卵巣や精巣を持ったホタテは、ほかではなかなか食べられないですし、本当にありがたいです。
まさにその「春ホタテ」を目指して来てくださるお客様もいらっしゃいますよ。
「泳ぐホタテ」は、うちのお客様の言葉を借りると、活きたまま食べられるホタテは味の解像度が高いです。新鮮というだけでなく、三陸の浜の香りや風景までが思い浮かぶほどです。土地を伝えられるというか。そういうところに価値があるのではないでしょうか。
海外の方も含めて、そういう岩手の食文化をしっかり伝えていきたいですね。
行き届く限界もありますので、お一人お一人を大切にしたいと思います。
そうやってお客様がニコニコして喜んで帰ってくださるのが、嬉しいですよね。
届いたホタテを、どう生かすか。石川さんのこだわり
(1)届いたら、鮮度のいい状態で剥いておく
泳ぐホタテを扱ううえで、石川さんが大切にしていることはありますか?
殻付きで購入されている方なら、食べるたびに剥くのではなく、鮮度が一番いいときに全部剥いてしまうのがコツかもしれません。
届いたら、活きのいい状態のうちに剥いておく。その方が鮮度を保ちやすいので、どんな料理にするにも、まずそこからですね。後から変えられない部分ですから。当日、全部食べなくても。
私の感覚ですが、発送から3日目くらいまでは泳ぐホタテでいてくれる、という感じですね。
普通のホタテはその後ねっとりしてくるんですけど、泳ぐホタテの場合は、サクッとした食感のまま熟成されるんです。
ヤマキイチさんが、原料づくりの極限のところをきちんとやってくださっているから、それを受け継ぐとしたら、やっぱりこの方法なんだと思います。
それは、漁師さんがきちんと仕事をしてくださっているからなんですよ。だから私たちは、お客様に一番おいしい状態を味わっていただけるように、バトンをつなぐことを心がけています。
(2)貝殻を使って、ホタテの旨みを生かす
それと、貝殻から旨みが出るので「貝殻の上で焼く」というのも、僕はやっぱり重要かなと思っています。津軽の郷土料理で貝焼きってありますよね。あれって、ホタテが入らなくてもホタテの殻で味噌と卵を閉じて作るんです。
やっぱりエラとかヒモって、まだまだ未利用なんですが、いい出汁だって出るんですよね。有効活用していただきたいです。
石川さんご自身は、泳ぐホタテのどのようなところに価値を感じていらっしゃいますか?
うちのお客様の言葉を借りると、活きたまま食べられるホタテは味の解像度が高いです。 新鮮というだけでなく、三陸の浜の香りや風景までが思い浮かぶほどです。土地を伝えられるというところに価値を感じています。
【実食】スペシャル:泳ぐホタテコース
この日は「ホタテの命を、余すところなく味わい尽くすコース」をいただきました。出汁に至るまで、すべての料理に「泳ぐホタテ」が使われていました。
貝柱だけでなく、エラやヒモといった部位もふんだんに活用。天然キノコや野菜など、岩手の食材と組み合わせながら、ホタテのさまざまな魅力を体験させていただきました。
【料理紹介①】枝豆の揚げ物とホタテ100%のさつま揚げ(自家製の紅生姜入り)

ホタテのさつま揚げは、つなぎの白身魚を使わず、ホタテ100%のすり身で作られています。アクセントになる自家製紅生姜は、梅干しを漬けたときにできる梅酢に、新生姜を漬け込んだもの。生姜の爽やかな風味が、ホタテの旨みを引き立てます。
枝豆のすり身は、朝採れの枝豆をさやから取り出して裏ごしし、もう一度豆の形に戻して揚げたもの。ふんわりとした食感が印象的でした。
【料理紹介②】釈迦シメジとホタテのエラ出汁のお椀

ホタテのエラから取った出汁をベースに、山で採取した天然のキノコ、釈迦シメジの出汁も合わせたお椀です。最後に出汁を吸ったお豆腐までおいしくいただきました。
体の芯から温まるような、滋味深い味わい。ホタテのエラから、こんなにも澄んだ深い出汁が取れることに驚きました。
【料理紹介③】泳ぐホタテの三陸クリームコロッケ
三陸の海藻を衣に使った、ホタテのクリームコロッケ。
中には、うろ(黒い部分)を取り除き、貝殻ごと焼いたホタテが丸ごと入っています。エラも使い、ホタテの出汁を加えたクリームは、牛乳やバターだけでは単調になりがちな味わいに、繊細な奥行きを生み出します。
石川さんが大切にしているのは、味を重ねるタイミング。ピークが来る直前を狙って味を組み合わせることで、焼いたヒモの歯応えや、揚げた衣の香ばしさも楽しめる一品に仕上げられています。
他にもホタテの様々な魅力を堪能しました
-
1
-
2
-
3
-
4
-
5
-
6
-
7
- ホタテの出汁を用いた茶碗蒸し
ホタテ、ウニ、三陸の海藻の煮物、種を取って叩いたオクラ、生わさび入り。 - 生貝柱と陸わかめの小鉢
自家製梅酢と菜種油で和えた赤玉ねぎ、乾燥させた赤しそ、しその実の醤油漬けを合わせて。サクッとした食感の生ホタテと爽やかな組み合わせ - 天然キノコとコーンのパテとホタテのエラフレーク
カラカラに水分を飛ばしたホタテのエラをフレークに。濃厚な旨みのトロけるパテに塩味もアクセント。 - ホタテと白丸ナスの丸焼き
貝殻の上で丸ごと焼いた貝柱とヒモを使用。ナスの分厚い身も香ばしく、可愛いらしいノビルの花を散らして。 - 貝ヒモと秋野菜のさっぱり和え
荒くおろした秋大根と菊の花、水のこぶ、アミタケというキノコ。ミリン干しにした貝ヒモが味も食感もアクセントに。お米の研ぎ汁で野菜を発酵させたまろやかなお酢に、酢橘とお醤油の搾り汁を重ねて。 - ホタテ貝柱の冷製茶漬け
貝殻の上で焼いた貝柱を脱水して荒くほぐしたフレークを贅沢に。エラと貝ひもの出汁をかけていただきました。 - 水まんじゅうと抹茶
透明でツルンとした食感は湧き水を食べているかのよう。塩を少し入れた岩手県産大豆のきな粉を添えて。(これだけホタテではありません。笑)
ものすごく丁寧に時間をかけて準備していただいた食材ばかりで、ホタテがこんな風になるとは。
一品一品にストーリーがあるのが、石川さんのお店ならではですよね。
ありがとうございます。やっぱり、ただ料理を出すだけじゃなくて、その背景にあるものも一緒に味わっていただきたいなと思っています。
来ていただいたお客様にも、せっかく対面でのカウンターなので、その日お客さんと作り上げる時間というか、主客一体を楽しんでいただけたらと思っています。それこそ一期一会の夜になるので。
ここに来て石川さんの料理について一品一品話を聞いて食べていると、お腹も満たされますし、精神的な豊かさにも繋がりますね。細胞が喜ぶということを強く感じました。
それが四季によって365日違うわけですから。石川さんが生放送のようにやられているのはすごく素敵だなと思います。
石川さんのお料理を通して、岩手の魅力がもっとたくさんの人に伝わっていくといいなと思います。今日は本当にありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。またぜひいらしてください。
おまけ
銀座「すし処 志喜」×「ななしの庵」特別な一夜
今年の夏、ヤマキイチ商店が運営する釜石のスペース「与助」にて、銀座「すし処 志喜」の吉村さんと石川さんによる特別なコラボレーションディナーを開催。水槽が並ぶ空間で、三陸の食材と二人の技が交わる特別なコースが振る舞われました。

やって本当によかったですね。お客様が喜んでくれたのが一番ですし、自分にとっても吉村さんの仕事を間近で見られたこと、一つのコースの中で混ざり合って生まれる世界観を体験できたことは、大きな刺激になりました。
普段とは違う特別な空間で、お客様の笑顔や会場の一体感を見ることができて本当に感動しました。またぜひ次回もご一緒できたら嬉しいですね。